2026年02月
2025年版『このマンガがすごい!』オンナ編は、深いテーマと多様な作家の作品を紹介し、現代女性の内面や社会構造を映し出します。
1.はじめに
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なぜ〈オタクの王国〉は滅び去ったのか? ガイナックス躍進と崩壊にみる天才作家・庵野秀明の苦悩と成熟 <連載記事:地球はエンタメでまわってる> …違和感や評価の分かれ目を言葉にする記事を執筆。最近の仕事は『このマンガがすごい!2025』CLAMP特集、マルハン東日本「ヲトナ基地」連載など。 X:@kaien… (出典:ねとらぼ) |
宝島社が刊行する「このマンガがすごい!」は、日本のマンガ批評において極めて重要な地位を占めている書籍です。書店員、書評家、漫画家、そして一般読者を含む幅広い層へのアンケートをもとに選出される本ランキングは、単なる人気投票にとどまりません。その年のマンガ業界における質的変化や、社会的関心の所在を鮮明に映し出す“鏡”としての役割を果たしてきました。
2025年版オンナ編のランキングは、成熟した作家陣による円熟味あふれる作品と、デジタルプラットフォームから台頭した新鋭作家による鮮烈な表現が交錯する、非常に密度の高いラインナップとなっています。本稿では、第1位から第5位までの中核的な作品群を取り上げ、物語構造、著者の表現技法の変遷、掲載媒体の戦略、そして読者層に与えた心理的・社会的インパクトについて、多角的に分析してまいります。
2025年版オンナ編の上位5作品を概観すると、よしながふみ氏や南Q太氏といった長年第一線で活躍してきた作家が、その卓越した人間洞察力を改めて示している一方で、世良田波波氏や卯月ココ氏といった新しい感性を持つ作家も高い評価を獲得しています。とりわけ後者は、現代女性の「本音」や「視覚的フェティシズム」を鋭く描き出し、読者の共感と関心を集めました。
表1.2025年版オンナ編上位5作品の概況
これらの作品群はいずれも、「自分をどのように定義し、他者といかに関係を築くのか」という現代的なテーマを扱っている点で共通しています。第1位の歴史的アプローチから第5位の青春ラブコメディに至るまで、一貫して流れているのは、「既存の記号にとらわれない人間の多面性」への強い関心であると言えるでしょう。
2025年版オンナ編のランキングは、成熟した作家陣による円熟味あふれる作品と、デジタルプラットフォームから台頭した新鋭作家による鮮烈な表現が交錯する、非常に密度の高いラインナップとなっています。本稿では、第1位から第5位までの中核的な作品群を取り上げ、物語構造、著者の表現技法の変遷、掲載媒体の戦略、そして読者層に与えた心理的・社会的インパクトについて、多角的に分析してまいります。
2025年版オンナ編の上位5作品を概観すると、よしながふみ氏や南Q太氏といった長年第一線で活躍してきた作家が、その卓越した人間洞察力を改めて示している一方で、世良田波波氏や卯月ココ氏といった新しい感性を持つ作家も高い評価を獲得しています。とりわけ後者は、現代女性の「本音」や「視覚的フェティシズム」を鋭く描き出し、読者の共感と関心を集めました。
表1.2025年版オンナ編上位5作品の概況
2. 第1位:よしながふみ『環と周』—普遍的な愛の連鎖と社会制度への批評
第1位を獲得した『環と周』は、よしながふみ氏が「時を超えて巡り合う物語」として16年以上前から構想を温めてきた連作短編集です。よしなが氏はこれまで、『大奥』や『きのう何食べた?』において、歴史改変や同性カップルの日常という枠組みを通しながら、社会制度の中で個人の感情がいかに揺れ動き、そしていかに尊重されるべきかを丁寧に描いてきました。本作もまた、その探究の延長線上に位置づけられる作品といえます。
物語構造と時代設定の意義
本作は、異なる時代を舞台にした5つの物語とエピローグによって構成されています。すべての物語に「環(たまき)」と「周(あまね)」という二人が登場しますが、その関係性は固定されていません。現代編では娘の同性愛をめぐる親の葛藤が描かれ、明治時代編では女学生同士の友情と別れが主題となります。さらに、1970年代編や戦後編では、軍の上司と部下、あるいは夫婦といったように、多様な関係性が提示されます。
このような「関係性の変奏」は、愛という感情が性別や婚姻関係といった社会的な枠組みに先立つ、人間同士の魂の共鳴であることを示す試みといえるでしょう。あえて時系列を交錯させる構成にすることで、読者に「どの時代であっても、人が人を想う気持ちの純度は変わらない」というメッセージを静かに投げかけています。最終話でそれぞれの物語が一本の線として結びつく瞬間には大きなカタルシスがあり、その緻密な構成力は多くの書評家から高い評価を受けました。
表現における「食」と「身体」
よしなが作品の象徴ともいえる「食事シーン」は、本作でも重要な役割を果たしています。作者は「食べることは人類共通の体験であり、思い出と重なりやすい」と語っており、各時代の食事描写を通して、その時代特有の社会的制約や文化背景を繊細に再現しています。食卓は単なる生活描写ではなく、人物同士の距離や感情の機微を映し出す装置として機能しています。
また、ジェンダーロール(性役割)からの解放も本作の重要なテーマのひとつです。大奥で男性が希少化した世界を描いたように、本作でも「女性が家事を担う」「男性がリーダーシップを取る」といった固定観念が揺らぐ瞬間に、人間同士の想いがより鮮やかに浮かび上がります。現代編において、夫がかつて同級生の男子を好きだった過去を打ち明ける場面は、過去と現在をつなぐ愛の多様性を象徴する印象的なシーンです。読者にとっても、「当たり前」とされてきた価値観を見つめ直す契機となる描写であったといえるでしょう。
3. 第2位:世良田波波『恋とか夢とかてんてんてん』—痛みを伴うリアリズムとSNS世代の孤独
第2位に選出された世良田波波氏の『恋とか夢とかてんてんてん』は、現代女性の「やるせなさ」を圧倒的な熱量で描き出した衝撃作です。マガジンハウスのウェブマンガサイト「SHURO」のオープンにあわせて連載が開始された本作は、商業デビュー作でありながらランキング2位に躍進するという快挙を成し遂げました。
貝塚道子というヒロインの特異性
主人公・貝塚道子(かいづか みちこ)は、かつて抱いていた夢を手放し、東京と大阪を行き来しながらフリーターとして暮らすアラサー女性です。彼女が経験する「30歳を過ぎてからの片思い」は、決して甘美なものではありません。思いを寄せる相手のSNSの裏アカウント(非公開アカウント)を突き止め、その投稿に一喜一憂する姿は、現代的な執着心と痛々しさをむき出しにしています。
一見すると覇気がなく、どこか停滞しているように見える道子ですが、ときおり発揮する謎の行動力が強い印象を残します。このアンバランスさは、理想と現実のあいだで揺れ動く読者層の心に深く刺さりました。選者の一人である粟生こずえ氏も、「勢いのある感情表現が一直線に胸を貫く」と評し、主人公のなりふり構わない無謀さと、荒削りながらも力強いグラフィック表現が一体となっている点を高く評価しています。
「激痛」の共有と連載媒体の役割
本作が描くのは、恋愛の「輝き」よりもむしろ「激痛」です。恋に敗れ、期待が裏切られた経験を持つ読者にとって、その感情は決して他人事ではありません。SNSでの口コミを通じて人気が急速に広がり、単行本発売時には異例ともいえる全編無料公開キャンペーンが実施されるなど、デジタル時代ならではのプロモーション戦略も大きな成功を収めました。
作者の世良田波波氏は、夢を諦めたあとの「余白」のような生活のなかに潜む、人間のしぶとい生命力を丹念に描き出しています。道子が抱える「恋とか夢とか」に対する不器用な向き合い方は、ある種の諦念を抱えながらも日々を生きる多くの現代人にとって、鏡のような存在となっているといえるでしょう。
4. 第3位:南Q太『ボールアンドチェイン』—女性の身体的自由と「鎖」からの脱却
第3位にランクインした『ボールアンドチェイン』は、ベテラン作家・南Q太氏が50代を迎えて描き上げた、女性の「自律と連帯」をテーマとする物語です。1969年生まれの南氏は、これまでも結婚・出産・離婚といった自身の経験を作品に反映させてきましたが、本作ではそれらを経たからこそ到達できる成熟した表現が随所に見られます。まさに集大成と呼ぶにふさわしい一作です。
二人の女性と人生の分岐点
物語は、冷え切った夫婦関係に苦しむ「あや」と、自由奔放に生きながらも孤独を抱える女性という、立場も年代も異なる二人の人生が交錯していく様子を描いています。
タイトルの「ボールアンドチェイン」は、直訳すれば囚人の足枷を意味しますが、本作では女性を家庭や社会規範、あるいは自らの身体意識に縛り付ける「見えない枷」のメタファーとして機能しています。制度や役割に縛られながらも、その中でどう生きるかを問い直す姿が丁寧に描かれています。
南Q太氏は、日常のさりげない会話や仕草の中に潜む微細な「違和感」をすくい上げることに長けた作家です。書評家の枡野浩一氏は、過去作『地下鉄の風に吹かれて』の頃に見られた危うさを、本作では完全に作家自身が制御し、成熟した表現へと昇華させていると評しています。その評価は、本作の完成度の高さを裏付けるものといえるでしょう。
掲載媒体「GINZA」とファッションとの親和性
本作は、ファッション誌『GINZA』のウェブサイトで連載され、2023年にはPV数1位を記録するなど、従来のマンガファン層を超えた広い読者層から注目を集めました。南氏の描く「生活感」と「洗練」が同居するビジュアル表現と、現代女性の切実な悩みを掘り下げる物語性が、感度の高い読者のライフスタイルと強く響き合った結果といえるでしょう。
本作を通して描かれるのは、女性が自らの身体や人生を他者に委ねるのではなく、自分自身のものとして取り戻していく過程です。結婚という制度や、老いという避けがたい自然現象にどう向き合うのか。南Q太氏が提示する「人生の冒険」は、多くの女性読者にとって指針となる一作となっています。
5.第4位:谷口菜津子『じゃあ、あんたが作ってみろよ』—キッチンから問い直す民主的な関係性
第4位にランクインした『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、料理を起点にジェンダー問題を解体し、再構築していく過程を描いた意欲作です。2025年には大きな話題を呼び、社会現象ともいえる広がりを見せました。作者の谷口菜津子氏は、「第26回手塚治虫文化賞・新生賞」を受賞した実力派であり、本作でも鋭い社会観察眼を存分に発揮しています。
構造的対立と自己変革のプロセス
物語は、広告代理店に勤める勝男(かつお)が、同棲中の恋人・鮎美(あゆみ)の料理に対して不用意なダメ出しをし、激怒した彼女が家を出ていく場面から始まります。「じゃあ、あんたが作ってみろよ」という鮎美の言葉を受け、自炊を始めた勝男は、自身の無知や傲慢さと向き合うことになります。
本作の画期的な点は、勝男が料理という具体的な行為を通して、自らの「当たり前」を一つひとつ解体していく過程を、ユーモアを交えながらも厳しく描いているところにあります。筑前煮にかかる手間を知り、顆粒だしやめんつゆといった便利な調味料を「手抜き」と断じていた自分の価値観が、いかに他者の労働の上に成り立っていたのかを思い知る姿は、多くの男性読者に共感と反省を促しました。
メディアミックスと社会的評価
本作は2025年にテレビドラマ化され、主演を務めた夏帆氏と竹内涼真氏の演技も相まって、さらに幅広い層へと作品のテーマが届けられました。放送当時は、男性読者から「自分の中にも勝男がいる」といった共感の声が上がる一方で、主人公の態度に対して「老害ではないか」という批判も寄せられ、現代のジェンダーロールをめぐる議論の最前線に位置づけられる作品となりました。
谷口氏は、料理という行為そのものを否定しているわけではありません。むしろ、料理に付随する「女性らしさ」や「当然期待される役割」といった無意識の呪縛を問い直しています。また、鮎美の側にも「良妻賢母」を演じてしまう葛藤が丁寧に描かれており、単純な加害者と被害者の構図に収まらない、人間関係の複雑な機微を掬い上げた秀作といえるでしょう。
6.第5位:卯月ココ『恋せよまやかし天使ども』—「完璧」の崩壊と共犯関係の美学
第5位にランクインした『恋せよまやかし天使ども』は、少女マンガ誌『デザート』の系譜を受け継ぎながら、SNS時代における「ペルソナ(仮面)」というテーマを巧みに取り入れた意欲作です。王道の学園ラブストーリーの形式を踏襲しつつも、現代的な自己演出の問題に切り込んでいる点が高く評価されました。
美少女と美青年の「裏の顔」
主人公の桂おとぎ(かつら おとぎ)は、周囲から「天使」と称される完璧な美少女を演じています。しかしその内面では、鋭い毒舌を抱えるリアリストという別の顔を持っています。一方、相手役の一刻(にのまえ とき)もまた、非の打ちどころのない人気者を装いながら、内側には虚飾と葛藤を抱えています。(「ブラックいっこく」と呼ばれています。)
互いの「裏の顔」を知った二人は、周囲には見せない本当の姿を共有する共犯関係へと発展していきます。この“秘密の共有”という構図が、読者の心を強く惹きつけました。単なる理想的なカップルではなく、不完全さを抱えた者同士が惹かれ合う点に、現代的なリアリティがあります。
作者・卯月ココ氏の最大の武器は、圧倒的な画力です。読者からは「絵があまりにも美しい」「表情の描き分けが見事」といった声が多く寄せられています。とりわけ、おとぎが見せる悔しさを滲ませた照れ顔や、飾らない本当の笑顔は、記号的な“美少女像”を超えた確かな生命感を宿しています。
「心撃の天使(しんげきのえんじぇる)」というキャッチコピーと若年層の支持
本作は10代から20代の読者を中心に支持を集めています。常に「完璧」であることを求められるSNS社会のプレッシャーの中で、おとぎの姿は一種の解放として受け止められました。彼女が「逃げない」と決意し、自らの感情に正直になっていく過程は、単なる恋愛の進展にとどまらず、一人の人間の精神的成長を描く物語としても読むことができます。
編集担当者のインタビューによれば、卯月氏は「強い女子が肯定されてもいいのではないか」という思いを込めて本作に取り組んだといいます。その姿勢は、従来の少女マンガヒロイン像への柔らかなカウンターとして機能しています。笑いとときめきの絶妙なバランス、そして秘密を共有することのほのかなエロティシズムが、本作をランキング上位へと押し上げた大きな要因といえるでしょう。
7.2025年オンナ編の総括と市場トレンドの変遷

1.「生活」への執着と「政治性」の日常化
第1位のよしながふみ氏の作品、第3位の南Q太氏の作品、そして第4位の谷口菜津子氏の作品に共通しているのは、食事や洗濯、介護といった「ケア労働」への深いまなざしです。かつての女性マンガが華やかな成功や恋愛の成就を中心に描いてきたのに対し、現在の読者が重視しているのは、「いかにして自分と周囲を健やかに保ち続けるか」という生活の持続可能性です。
これは、政治的・社会的な課題が遠い世界の出来事ではなく、キッチンや寝室、あるいは職場の片隅といった日常空間に密接に結びついているという認識が広がっていることを示しています。日々の営みそのものが、すでに社会構造と深く結びついているという感覚が、作品の評価にも反映されているといえるでしょう。
2.デジタル・ネイティブな作家性と「本音」の解像度
第2位の世良田波波氏や第5位の卯月ココ氏に見られるように、SNSでの発信力やデジタルプラットフォームの特性を活かした作家の存在感が際立っています。とりわけ世良田氏の作品に登場する「片思いの相手の裏アカウントを特定する」といった具体的な描写は、従来のマンガ表現にはあまり見られなかった現代特有の焦燥感や孤独を的確にすくい取っています。
読者は、作品の中に理想化された世界を見るだけではなく、自分の中にある「見たくない感情」や「言葉にしづらい本音」を見出します。そしてそれを他者と共有できる場としてマンガを受け取ることで、逆説的に癒やしや救いを感じているのではないでしょうか。
3.出版メディアの多様化と「SHURO」現象
今回、マガジンハウスの「SHURO」レーベルから第2位と第3位の作品が選出されたことは、非常に象徴的です。従来の少女・女性マンガ誌という枠組みを越え、ファッション誌や文芸的感性を持つ読者層を取り込んだ戦略は、マンガ市場の裾野を大きく広げました。
これは、マンガが「特定ジャンルの愛好家のための娯楽」から、より広い意味での文化的教養やライフスタイルの一部へと位置づけを変えつつあることを示しています。メディアの多様化と読者層の拡張は、今後のマンガ表現のさらなる進化を予感させる動きといえるでしょう。
表2.掲載媒体とその主なターゲット層
8.文化的背景:なぜ今、これらの物語が必要とされるのか
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<僕の心のヤバイやつ>羊宮妃那の“ヒーリング副音声上映”実施 優しい声に包まれ 一緒に映画を見ているような体験 …学園カースト頂点の陽キャ美少女・山田杏奈の青春ラブコメディー。「このマンガがすごい!」のオトコ編に2020、2021年と2年連続でランクインし、202… (出典:MANTANWEB) |
2025年のランキング結果からは、読者が「自分の名前を取り戻すこと」を強く求めている姿勢がうかがえます。第1位『環と周』に描かれた、時代や制度が変わってもなお失われない「個」の輝き。第2位の道子のように、無様であっても自分の感情を貫こうとする意志。第3位のあやのように、自分を縛る鎖を自覚し、それでも一歩を踏み出す勇気。第4位の勝男のように、自らの特権性を見つめ直し、他者と対等であろうとする誠実さ。そして第5位の“天使”たちのように、演じている自分さえも笑い飛ばすことのできる強さ。
これらの作品に共通しているのは、「既存の物語」に安住するのではなく、「自分自身の物語」を書き始めようとする姿勢です。読者は、登場人物たちの苦闘や選択に寄り添いながら、自らの生活や価値観をあらためて問い直すきっかけを得ています。マンガは単なる娯楽ではなく、人生の輪郭を描き直すための思考の場となっているのです。
また、ランキング上位作に顕著な「不器用さ」への肯定は、過度な効率化や自己責任論が強まる現代社会に対する、マンガからの静かな応答とも受け取れます。多くの人が何らかの「諦め」を抱えながら日々を生きているなかで、その諦めを単なる敗北ではなく、一つの「生き方」として描き出した世良田波波氏の功績は非常に大きいといえるでしょう。
これらの作品に共通しているのは、「既存の物語」に安住するのではなく、「自分自身の物語」を書き始めようとする姿勢です。読者は、登場人物たちの苦闘や選択に寄り添いながら、自らの生活や価値観をあらためて問い直すきっかけを得ています。マンガは単なる娯楽ではなく、人生の輪郭を描き直すための思考の場となっているのです。
また、ランキング上位作に顕著な「不器用さ」への肯定は、過度な効率化や自己責任論が強まる現代社会に対する、マンガからの静かな応答とも受け取れます。多くの人が何らかの「諦め」を抱えながら日々を生きているなかで、その諦めを単なる敗北ではなく、一つの「生き方」として描き出した世良田波波氏の功績は非常に大きいといえるでしょう。
9.まとめ
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『このマンガがすごい!』は、宝島社が発行するマンガ紹介ムック。 もともとは「別冊宝島 いきなり最終回」などの流れをくむ別冊宝島シリーズとして、1996年と2004年に刊行された(1997年には、1996年度版と同一スタッフによる、ほぼ同じ構成の『別冊宝島 このマンガがえらい!』も発売されている)。… 65キロバイト (2,559 語) - 2026年1月20日 (火) 02:54 |
2025年版『このマンガがすごい!』オンナ編の上位5作品は、現代の女性マンガが、個人の内面的な葛藤から社会構造への批評、さらには時空を超えた普遍的な愛の探求に至るまで、きわめて広い領域を射程に収めていることを示しました。
よしながふみ氏が提示した歴史的パースペクティブ、世良田波波氏が切り拓いた感情表現のフロンティア、南Q太氏が描き出した大人の女性の自立、谷口菜津子氏が問い直した民主的な家事のあり方、そして卯月ココ氏が追求したビジュアル・ストーリーテリングの美学。これら多様なアプローチが、それぞれ高い完成度をもって競い合った結果、本年度のランキングは稀に見る豊作となりました。
本ランキング上位作品が読者に与えた影響は、一過性の流行にとどまるものではないでしょう。今後のマンガ表現における新たな基準点として、長く参照され続ける可能性を秘めています。マンガは、私たちがどのような時代を生き、何に悩み、何を愛しているのかを、きわめて鮮明に映し出すメディアです。2025年のオンナ編ランキングは、その事実を改めて力強く証明したといえるでしょう。

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